ゆうらいふエッセイ

夫と娘二人の介護で『家がいい、出来れば家にいたい』の 希望を叶えたK氏

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夫と娘二人の介護で『家がいい、出来れば家にいたい』の
希望を叶えたK氏

令和5年10月末:78歳で永眠

 K氏は肺がんが脳に転移し、抗癌剤治療や放射線治療を受けていた。令和5年2月に介護保険の申請をされた。初めて訪問した時のK氏の優しい笑顔が今も浮かびます。K氏と夫・近所に住む二人の娘さんとの初対面の訪問で、あたたかい家族関係だと感じた。長女さんは病院で看護師として勤務していると伺った。
 介護保険について説明するとK氏は『そりゃ家がいい。出来れば家にいたい 』と自身の想いを口にされた。べッドや車椅子・手すり等福祉用具のレンタルが出来ること、ポータブルトイレやシャワーチェアー等の購入が出来ること、訪問看護師が病院の看護師の様にケアに来てくれること、病院に通院することが難しくなれば自宅に診に来てくれる在宅医師への変更が出来ることを説明した。長女さんも「そんなサービスがあるんですね、それなら安心」と在宅介護の不安が軽減した様に思えた。
 暫くの間は通院しながら痛み止めや眠剤を使い何とか暮らせた。大好きな花の世話を夫と一緒にしたリ、娘さんと買い物や料理をすることが出来た。徐々に歩くことが難しくなると、長女さんが病院の主治医に相談し、在宅医(往診医)を決めた。この頃から食事量が減り入院も検討されたが、夫が「入院すれば全く食べなくなる。家で自分が看る」と自宅での最期の時までの看取りの決意を口にされた。
 在宅医は初回訪問で娘さんと夫に1か月の命と告げられた。夫の疲労感が見え始めた頃からは娘さんたちが交代で夫をサポートした。トイレまでの移動が出来なくなったが、K氏が寝たままでは出ないと言うので、夜には三人がかりでポータブルトイレにおろす日々が1か月以上続いた。食事量と水分量が減り、尿が出なくなり、医師から数日の命と告げられた。娘さんは仕事を休み、K氏に付き添い、夫のサポートをした。訪問時、長女さんから「母の病状を受け入れる為に、母が私達にこうした時間を与えてくれたのかもしれない」と話された。
 最期は夫、二人の娘さんや孫さんに看取られ、静かに息を引き取った。知らせを聞いてK氏を訪問すると、初回訪問した時のように優しい笑顔で迎えてくれた。病院で働く看護師の長女さんでさえ、

「こうして最期まで家で暮らせるとは思わなかった。今『家にいたい❢』との母の願いが叶えられたことで、家族皆が満足している」と。

お洒落だったK氏の洋服を娘さんが選び、夫は二人で廻った御朱印帳を棺に入れたいと話した。K氏の願いを叶えるために、家族一人ひとりが悩み迷いながら協力するあたたかい姿を学ばせて頂いた。
深田ケアマネ記