第9話
人生最期の時は”解剖してほしい”と遺言した母娘の想いは?
2010年5月救急搬送永眠
成年後見人として市の保健師・担当ケアマネジャーと自宅へ訪問。2階建ての持ち家に猫3匹と暮らしていた。本人の第一声は「お金がない…」とがま口の小銭を見せてくださる。保健師より「実は押し入れに300万円置いてあり貯金しています」と。日々の生活は訪問介護のサービスと配食サービスでの生活。一番の困りごとは猫の糞と蚤で不潔な事、着替えも拒否され入浴しない事。後見人としては生活支援はケアマネジャーにお願いし、金銭管理!持ち金探しをした。郵便物を確認すると郵便局の通知に1千万円超えの通知書を見つける。本人と一緒に成年後見人の証明書を持参して郵便局と年金の振込先銀行廻りを行った。郵便局で1千万超えのお金を出して銀行へ運んだ。二人で銀行に顔を出すと避けるような対応であったが、お金を出し通帳を調べていると行員がびっくりして茶菓子を出してくださる待遇を受けた。年金の振込通帳も見つかり総額3千万円以上の持ち金が確認できた。娘へ持ち金もあり今後の事を相談すると「一切かかわりたくない」と。本人へ「年金もお金もたくさんあります。良かったですね」と話しあったが、翌日から「お金がない…」とヘルパーにこぼす生活を続けた。業者に依頼して室内の大掃除をしたが、猫の為にすぐに不潔状態となり市内のグループホームに入所された。
病院への受診もスムーズになり、検査の結果バセドウ病と心不全が見つかった。主治医よりこの二つの病気は薬が拮抗するので治療が難しいと言われた。入院時娘に連絡して医師の診断を伝えて病院へ来てもらった。娘の一声は「母には会いません」。主治医と娘・私と面談して病状と今後の治療方針を聴いた。
娘より「母は死んだら解剖してほしいと言っていました」と。そのことを医師の前で署名した。
6か月後施設で入浴後心不全の発作を起こし病院へ緊急搬送された。連絡を受けてすぐに病院へ駆けつけた。本人は挿管され人工呼吸器がつけられていた。娘へ連絡すると「私は逢いに行きません。以前解剖してほしいと渡しました」と。その旨医師に伝えた。医師はカルテを確認し「わかりました。ありがとうございます」と。2時間ほど待ち施設の方々と共に葬儀場へ。翌日葬式・火葬を行い琵琶湖の見晴らしの良い納骨堂へお連れし、ゆかしいお寺でお参りさせて頂いた。
施設の方々より、穏やかに笑顔で過ごされ音楽好きだったこと、昨日の朝も笑顔で食事を共にしたこと、ムードメーカーでいらしたことを聴き、”終わり良ければ・すべて良し”ふっと心にこだましました。
後日娘と面会しすべての財産を引き継ぎました。納骨堂の場所を伝えるも「私は逢いに行きません」と。母子の過去の心の軋みはわかりません。只、本人は自身の人生を生ききったのだと、人としての強さを実感しました。