ゆうらいふエッセイ

3人の娘に看取られ自身の願いを叶えたY氏…妻の涙から

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3人の娘に看取られ自身の願いを叶えたY氏…妻の涙から

2024年5月永眠 73歳

 Y氏は約1年前から肺がんで抗がん剤治療を受けていたが、肝臓にも転移しもう治療はできないと言われてケアマネ依頼を受けた。初めてY氏とお会いした時、ベットに寝ていたが表情はしっかりされていて、問いかけにもしっかり応えてくださった。その後リビングに移り長女さんと話しをしていると、一人でリビングに歩いてきてソファーに座られた。腹水が溜まり腹部はかなり大きくなっていた。Y氏はそのお腹を「家では食べられるので、こんなに大きくなったんや」と言われた。

 「家がええ、最期まで家にいたい」そう話してくれた翌日、定期受診で即日入院するように医師より言われ「無理矢理入院させてしまった」と長女より相談の電話があった。入院したことを「父の望みと反した行動をとった」と長女さんは悔いており、どうすれば良いのかとの相談であった。医師やご家族(妻・娘3人)とよく話し合い、お父さんもそして残されたご家族も後悔することがない様にと!家に戻るのであれば在宅介護の支援ができることを伝え、病院と在宅を繋ぐ地域連携室の看護師とも連携し、在宅に戻ることになればすぐに対応できる様段取りした。最初に訪問した日から8日目、一旦在宅に戻るとのことで退院カンファレンスが開催された。病状はかなり進行しており”本当に退院できるのだろうか”と思えるほどずいぶん様子が変わっていた。退院カンファレンスで、妻が主治医にはっきりと「最期は先生に看取って欲しいです」と言われた為、2日だけ自宅に戻り、また病院に帰る方向で話が決まった。

 退院翌日訪問すると、3人の娘さんに身体を拭いてもらっていた。長女さんは「もう病院には戻りません。この家で看取ることを家族で決めました」と。母も同意してくれたと。その日の夕方、Y氏は三人の娘家族に見守られ永眠された。

 グリーフケアに訪れた際、長女さんからは、タイミング的にもこれで良かった。家に連れて帰って来れて良かったとお聞きしました。しかし娘さんが席を外したその後、妻は目に一杯涙を溜め、Y氏との長年の生活を振り返り「家に帰って来ても、まともに顔が見れなかった。顔を見るのが怖かった」と言われた。その時、退院カンファレンスでの妻の言葉の意味がわかった。

妻は”まだ家で看取る事に納得していなかったのだ”と実感した。三人の娘さんと妻との気持ちのズレ、最期の時になっても埋められないY氏との間の深い溝がある事を知った。

 短期間の関わりの中でも、家族の中の関係性や思いの違いを把握して行動する事の重要性を学ぶ機会となった。最後には、妻から”娘たちがそれで悔いがないのなら良かった”とお聞きすることができました。家族とは何だろう…?そして、このエッセイを書き上げ、妻と長女さんに見てもらうために訪問した。妻は、「これで良かったと思っている。あなたがケアマネで良かった。こうして家で看取れ、娘たちが良かったと思えたのだから」と笑顔で話してくれた。「私の時も頼むわ」と言って下さり嬉しかった。次女さんは病院の看護師をしていたが、今は訪問看護師をしていると聞き、ケアマネ冥利に尽きると改めて感じた。